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鹿児島地方裁判所 昭和28年(行)5号 判決

原告 永田武安 外四名

被告 鹿児島県知事

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は「被告が昭和二十八年二月二十六日付二七文宗第一、六三六号をもつてした宗教法人永正寺規則の認証決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として原告等は、大口市下殿八十一番地所在宗教団体永正寺(以下単に永正寺宗団という。)の門徒であつたが、被告は、昭和二十七年十一月十七日付で永正寺住職訴外面文雄が提出した宗教法人永正寺の規則認証申請に基づき昭和二十八年二月二十六日付二七文宗第一、六三六号をもつて右規則の認証決定をした。しかしながら右規則は次に述べるような手続で作成された無効のものである、すなわち、宗教法人永正寺規則が作成され、同法人の新規設立がなされるに至つた経緯は、従来永正寺宗団の住職は、真宗大谷派東本願寺鹿児島別院教務所長がこれを兼ね、永正寺に在勤する寺僧は住職たる教務所長が任免する慣行であつたところ、昭和二十六年八月九日に、当時の住職訴外面文雄は、寺僧として約十年の長きにわたり永正寺に在勤し、布教に努力して幾多の功績を残し、全門徒の信望を集めていた訴外村上譲を、門徒の意思を無視して突然他に転任させ、その後任として訴外徳永孝英を任命したのであるが、門徒中には、原告等をも含めて住職のかゝる転任発令に反対し、村上の留任を切望する者(以下単に村上派という。)と、住職の任命した徳永の新任を支持する者(以下単に本山派という。)とが生じ、結局門徒は二派に岐れて種々対立抗争を続けることゝなり、後には、村上派は新宗教法人法の施行を契機として東本願寺の末寺たる右永正寺宗団を離脱し、独立した新たな宗団を設立しようとする気運がたかまり、永正寺の堂宇その他の礼拝施設等の所有権の帰属をめぐり本山派との対立は益々激化していつたところ、右面住職は、本山派と内密裡に事を運び、村上派門徒の不知の間に新たに宗教法人永正寺を設立しようと企て、昭和二十七年五月二十日には、永正寺宗団の門徒総会を開催した事実が無いにもかかわらず、同日門徒総会を開催し、その席上永正寺宗教法人の設立を決議し、その規則を作成し、かつ責任役員等の選任をした旨の架空の門徒総会議事録を作り、これに基づき前示面文雄名義をもつて前記のように被告に対して永正寺規則の認証申請をしたのであつて、右規則は元来門徒の総意によつて作成さるべきものであり、その機関である門徒総会によつて作成されなければならぬものであるにかかわらず、何等このような手続によつて作成されたものでないから当然無効のものであり、従つてまた、これを有効な規則としてなされた面文雄の認証申請手続も宗教法人法第十三条所定の要件を欠く実質的に無効のものである。しかるに被告はこれを有効なものと誤認して前記のように右規則の認証決定をしたものであつて、右の処分は明らかに違法なものといわなければならず到底これが取消を免れないものである。

仮に、右規則が昭和二十七年四月三十日の永正寺門徒総会によつて作成されたものであるとしても、右門徒総会は次のようなかしのある違法のものである。すなわち、永正寺宗団の門徒総会は設立当初から、門徒の中から選出されている門徒総代によつてその開催を決定し、かつ門徒を招集することと定められているにかかわらず、右門徒総会は、門徒総代によつて開催招集されたものではなく、何等その権限のないものによつて招集されたものであつて、その招集手続にかしがあるばかりでなく、右総会開催の通知は宗団所属の全門徒に対してはなされず、単に本山派門徒に対してのみなされたのであつて、結局全門徒に総会出席の機会を与えずして開かれたもので門徒の総意を聞いたものとはいえず、従つてまたかゝる不適法な総会によつて作成された規則も有効なものとはいえない。

以上の次第であるから、右永正寺規則は当然無効のものであるにかかわらず、被告はこれを有効のものと誤認して、右認証決定をしたものであるから、右決定は明らかに違法のものであり、かゝる違法処分によつて認証された規則によりなされた宗教法人永正寺の設立もまた当然無効のものというべきであるが、形式上有効のものとして設立登記がなされているため、原告等旧永正寺宗団の門徒もまた形式上右法人の構成員とされ、自己の意思に反して無効の永正寺規則に拘束され、真宗大谷派東本願寺の末寺の門徒として、その宗憲にも拘束を受けることゝなり、信教の自由を侵害されることゝなるばかりでなく、本来旧永正寺宗団全門徒の共有に属する永正寺の堂宇その他の礼拝施設も右新法人に帰属するものとなり、原告等のこれに対する使用権も奪われる結果となり、原告等の共有持分が侵害されることになるので、原告等は右宗教法人の設立無効確認の訴を提起しているのであるが、その先決問題として被告の右規則認証決定の取消を求めるため、本訴請求に及んだものであると陳述し、被告の主張事実はすべて争うと述べた。(立証省略)

被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、原告等主張の請求原因事実中、被告が原告等主張のように、訴外永正寺住職面文雄の認証申請に基づき、昭和二十八年二月二十六日付二七文宗第一、六三六号をもつて宗教法人永正寺規則の認証決定をしたことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。右認証決定に際し永正寺は、宗教法人法所定の要件を具備した申請をなし、規則は法定の要件を充分に満しており、添付書類はいずれも事実と相違ないことを証明するに十分であると認められたので、同法第十四条の規定に従いその認証決定をしたものであつて、その間に何等の手続上のかしもなく、また事実の誤認もないから、違法となるいわれはない。しかのみならず、原告等はその主張することによつても明らかなように、永正寺法人の前身たる永正寺宗団を事前に離脱し、別個独立の宗教団体を設立して自らの宗教活動を続けることを自認しているのであつて、原告等は永正寺法人の門徒ではないのであるから、何等その規則に拘束を受けるものではないし、被告の右規則認証決定は、単に宗教法人設立の一段階に過ぎず、旧永正寺宗団所有の堂宇その他の財産権が何人に帰属するかは、右認証決定によつては何等の影響をも受けるものではない。宗教法人法に定める認証決定は、堂宇その他の礼拝施設等の財産上の権利如何にはかかわらず、適法な要件を具備した規則である限りその認証申請により行政庁はこれが認証決定を行うべき法律上の義務を負担しているものであつて、その認証決定によつて設立されるべき宗教法人が如何なる財産権を取得し或いは財産上の地位を有するかは全く何等の関連性も有しないところであつて、結局本件行政処分によつては、何等原告等の権利又は法律上の利益を侵害するものではないから原告等は本件行政処分の取消を訴求する権利をもたないものといわなければならない。

仮に原告等に本件行政処分の取消を訴求する権利があるとしても、前示のように被告のした右認証決定は何等のかしもない適法のものである。原告等は仮定主張として右規則作成に手続上のかしがあり、門徒の総意に基づかない無効のものであるというが、凡そ宗教団体が宗教法人を設立するにあたり、一部門徒がこれに反対し、これ等が参加しないまゝに門徒総会を開催し、その際に宗教法人の設立を決議し、その規則が作成されたからといつて、該規則が常に無効のものとなるいわれはなく、特に本件のように一部反対派が自ら本山の包括する永正寺宗団を離脱して別個独立の宗教団体を設立することゝなつていた場合の如きは、かゝる離脱派の門徒までも含めた全門徒の総会によつてこれを作成する必要はないものというべきであつて、本件規則作成の際一部門徒が不参加であつたからといつて何等その手続にかしがあるものではない。

仮に、右永正寺規則の作成手続に原告等主張のようなかしがあるとしても、宗教の自由を擁護保障することを目的とする宗教法人法制定の趣旨に鑑み、かつは、同法第八十条が認証の取消は、宗教団体としての要件を欠く場合にのみなし得るように限定し、その取消し得べき期限を認証書交付の日から一年以内と定めている法意に照らしても、宗教法人の規則認証処分の無効又は取消原因は、当該団体が宗教法人としての要件を欠く場合のみと限定的に解さるべきであつて、本件においては、永正寺法人が宗教団体としての要件を具備していることは明らかなところであるにかかわらず、些細な規則作成上のかしを原因として、被告のした規則認証決定が取消されるときには、折角成立した永正寺法人の根底をゆるがす結果ともなり、かえつて宗教の自由を侵害する不当のものといわなければならない。

以上いずれの点からしても原告等の本訴請求は失当であるから棄却されるべきである、と陳述した。(立証省略)

三、理  由

被告が昭和二十七年十一月十七日付で訴外永正寺住職面文雄がした宗教法人永正寺規則認証申請に基づき、昭和二十八年二月二十六日付二七文宗第一、六三六号をもつて、右規則の認証決定をしたことは当事者間に争いがない。

被告は、右認証決定によつては、原告等は何等その権利又は、法律上の利益を侵害されるものではないから、その取消を訴求し得ないと主張するので、まずこの点につき判断するに、凡そ、宗教法人の設立及び存続の要件とされる規則は、宗教団体が宗教法人法の定めるところに従い、法人格を取得してその宗教的活動及び団体運営を行うため、当該団体構成の基幹たる宗教的組織活動の根本、構成員の内部規律等を定めた、いわゆる当該団体の自律規定たるべきものであつてこれに基づいて成立した当該法人の構成員を拘束すべきものであることは、その性質上当然のことであるが、これが構成員として当該団体に包括される者以外には、何等の拘束力等をも有しないものであることもまた論ずるまでもないところである。そうして右規則に対する行政庁の認証決定はかかる宗教団体の自律規定につき、法人格を付与してその活動を助長擁護するための最少限度の法的規整を図る目的からこれが法定の要件を具備するか否かを審査し、これに適合するものについてこれを公証するにとゞまる、いわゆる認可的行為であつて、これによつては何等当該宗教団体に対して権利を付与するものではなく、単にその法人格取得の前提段階としてなされる処分に過ぎないものであり、従つてこれが認証決定の当否を争い得るものは、当該規則によつて、自己の何等かの権利又は法律上の利益を侵害される者のみに限られるべきものと解すべきである。

さて、これを本件についてみると、原告等がいずれも、訴外宗教法人永正寺の設立以前から真宗大谷派東本願寺の末寺たる旧永正寺宗団を離脱し、別個独立の宗教団体を設立しようとして、いわゆる本山派の門徒とはその行動を共にしていなかつたものであることは原告等の主張自体によつて明らかであるばかりでなく、原告永田武安の本人尋問の結果によれば、原告等は右永正寺法人設立後もその門徒としてその構成員となつていないことは勿論、加入の申込すらもしていないのであることが認められる。

さすれば原告等は被告のした認証決定に基づいて設立された宗教法人永正寺規則には何等の拘束をも受けないことはいうまでもないことで、何等その権利又は法律上の利益を侵害される者ということはできない。

原告等は、旧永正寺宗団の堂宇その他の礼拝施設等の財産上の権利の帰属につき権利の侵害があると主張するけれども、たとえその主張のように旧永正寺宗団門徒の共有に属していた右財産権が新法人永正寺によつて承継取得されたものとしても、それは単に旧永正寺宗団と新法人永正寺との間の私法上の財産権の帰属についての問題たるに止まり被告のした右規則認証決定によつては実質的に何等その権利の変動等に影響を及ぼすものと認めることはできない。

以上のとおりであるから、原告等は被告のした本件行政処分によつては何等その権利又は法律上の利益を侵害されたものということはできないのであつて、結局本件行政処分の当否を訴求する権利を有しないものと断ずるほかはない。

従つて原告等の本訴請求は爾余の点につき判断するまでもなく理由のないことが明らかであるからこれを棄却することゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森田直記 小出吉次 滝田薫)

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